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CEC現地コーディネーター紹介

コルカタで2番目に忙しい男、その名もカロル!

「ハイモシモシ、タイキさん。ヒコウキどうなった? ん? オーケーオーケー! 9ジにクルマがいきますネ」

 新しくきれいになったコルカタ空港の到着ロビーに、怪しげな日本語を駆使して携帯電話をかけているひとりのインド人がいた。背が高くて中肉中背、丸い顔にはサングラスをかけていて…一見まるでマフィアのボスのような風貌だ。しかし、彼こそがCECが誇る名物コーディネーター、その名も「カロル」だ。カロルは僕の姿を見つけて手をあげた。
「ハイ、ジンさん、コルカタへようこそ!」
そういうとニヤリと笑った。普段はなんだか怖そうなカロルの顔も、笑うと急に優しくなる。だいたい…インド人の顔ってみんな怖そうなのだ。浅黒い顔色に彫りの深い顔のつくり、そこにヒゲなんかはやしちゃって、黙っていると怒ってるのかとビビってしまうほどだ。カロルも最初はそんな感じで、最初に会ったときは怖い人なのかと思ったほどだ。
「ゲンキですか?」カロルが笑いかける。
「はいはい、ゲンキですよ!」
カロルに返事をするときは、こっちの日本語もなんだかヘンになってしまう。

 カロルとCECのつきあいは、もう10年近くになる。本名は「カロル・ボーズ」。コルカタ生まれのコルカタ育ち。子どもの頃は勉強をしない、戦争映画が好きなやんちゃ坊主だったらしい。大学を卒業し、日本語ガイドやツーリストタクシーなどを経験したあとに、縁あってCECの現地コーディネーターとして働くようになった。奥さんと子供がひとりいて、山歩きと写真が趣味だが、最近は忙しくてなかなか遊びに行けないのが悩みだという。

 僕たちはカロル自慢のタタ製の車で街に向かった。三年ぶりに来たコルカタの街は、相変わらずパワーに満ちあふれていた。道を歩くたくさんの人々に、道路にあふれる車、そしてそれらが生み出す騒音。何か大きな荷物をかかえて自転車をこいでいる人もいれば、道ばたに座り込んで何かを売っている人もいるし、ただぼーっと立っているだけの人もいる。ボロボロの服を着た人もいれば、スーツをビシッと着て高級車でさっそうと去っていく人もいる。その「何でもあり」の混沌とした元気は、行儀がよくて整然としている日本から来ると、とてもまぶしく見える。

 僕がカロルに話しかけようとしたとき、カロルの持っている携帯電話が「ピリリリ…」と鳴った。
「ハイ、モシモシ!」
カロルは日本語で話し込んでいる。どうやらボランティアで来ている学生から電話が入ったみたいだ。
「…ダレもいないですか? わかりました。そこでマッテください」
カロルは急いで電話を切ると、こんどは別の誰かのところに電話をかけ、ベンガル語でベラベラと話しはじめる。カロルによると、電話はボランティアの女子学生だった。一日のボランティア作業が終わってホームステイ先に帰ってみると誰もいないので、心配になってカロルに電話をしてきたのだ。さっそくカロルがその家のお母さんに電話すると、渋滞でマーケットから帰るのがちょっと遅れていたらしい。カロルは再び女子学生に電話をかけ、「オカアさんチカクにいます。あとちょっとでつくからマッテください。ゴフンだけ!」
カロルは汗を拭きながら一生懸命に説明している…。

 どうやら相変わらずカロルの毎日は超多忙なようだ。忙しい時期には同時に何十人ものボランティアがこのコルカタを訪れる。その誰もがカロルを頼りにして、何かがあると電話をかけるから、忙しいときなど電話が途切れる暇がない。
「カロルさん、お腹を壊しちゃったよ!」
「道に迷ってマザーハウスがわからなくなっちゃった、助けてカロル!」
「ボランティア先を変えることってできますか?」
「どこか観光に行きたいと思うんですが、どこがいい?」
…こんな具合に、昼夜を問わず色々な電話がかかってくる。カロルひとりでその難問ひとつひとつに応えているから大変だ。

もちろんその合間には、ボランティアたちを空港からホストファミリー宅へ送り届けたり、コルカタの街を案内したり、色々な事務手続きをこなさなければならない。そんな状態が休みなく朝から晩まで続くのだから、カロルこそがコルカタで一番…いや二番目ぐらいには忙しい男と言っていいだろう。

 車は街の中心街に入り、見覚えのある建物がいくつも通り過ぎる。コルカタの街は以前来たときより少しきれいになっているようだ。
「カロルはコルカタが好き?」僕は聞いてみた。
「とてもスキです」
「コルカタのどこが好き?」
「そうですね…」
少し考えてからカロルは言った。
「こういうコトバがあります『デリーは美しい女性の外見、ジャイプールとアグラは女性の美しい瞳、そしてコルカタは女性の美しい心』というんです」
カロルはいたずらっぽい顔をして僕を見た。

 カロルによると、同じように見えるインド人も地域によって性格が違うらしい。日本人にも東北人や関西人など色々なタイプがいるのと同じだ。そして、コルカタは「人情の町」なのだという。それを表したのが先ほどカロルの言った名言なのだ。コルカタは「女性の美しい心」と言えるほど、愛にあふれていて温かいのだという。

日本で言えば…大阪のようなところかもしれない。人なつこくて人情に厚くてちょっとおせっかい…。そういえばこの前ホームステイさせてもらった家にも、ちょっと豪快で面倒見のいい「大阪のおばちゃん」ならぬ「コルカタのおばちゃん」がいたっけ…。

カロルがあるできごとを話してくれた。
「このまえ、ボランティアの学生さんが道に迷いました。今どこにいるかわからなくなって、帰るはずのホームステイ先がわからない。困り果ててウロウロしていると、どこからともなく人々が集まってきて、口々にああでもない、こうでもないと話し始めました。そして最後には、10人以上の人々がよってたかって、その学生さんをホームステイ先まで連れてきてくれたんです!」

 僕はそれを聞いて大笑いした。10人以上の人々が日本人学生をとりかこんでぞろぞろと歩く様子が目に浮かんだ。その学生もきっととまどい、びっくりしたことだろう。

 じつを言うと…、僕は最初インドが苦手だった。というのも日本にいるときに聞いたインドの評判があまりにも悪かったからだ。その人たちによると、インドの街は人や車だらけでどこも汚れていて、空港ではすぐに荷物を盗もうとする…、タクシーに乗れば遠回りをしてヘンなところに連れて行かれる…、物を買おうとすればふっかけられて何倍も高いお金を払わされる…などなど。

とにかく、インドは汚くて油断ならないヤツらの集まりみたいな話ばかりを聞いていた。そのためはじめてインドに来たときは必要以上に身構えてしまい、慣れるのに精一杯でヘトヘトに疲れてしまったのだ。なにせ、すれ違う人や道行く人すべてがドロボウや悪人に見えてしまったのだから仕方がない。

 ところがインドにしばらく滞在すると、そんな人たちもじつは全然怖くなんてなくて、みんな意外に心優しくて情が厚いってわかってくる。それを僕に教えてくれたのがカロルだった。

「コンナこともありましたヨ」
カロルによると、あるときコルカタの地下鉄の中で、乗客同士のケンカが始まったそうだ。何が原因かはわからないが、お互いつかみかかりながら喧嘩をしている。それを見ていた周囲の人たちは、一生懸命二人の間に入って、当人たちの言い分を聞き、仲直りするように仲裁してしまったのだそう。これもおせっかいだが温かいコルカタ人の気質を表している。

カロルが言った。
「コルカタはインドで最初にイギリス文化が入ってきたところだから、レディ・ファーストの文化も残っているんです」
僕は「なるほど!」と思った。前にギュウギュウ詰めのバスに乗ったとき、女性が乗ると必死になって席を空けてくれたのはレディーファーストの習慣だったのだ。

 もちろんだからといってコルカタに悪い人がいないわけではない。他の観光地と同じように、スリや置き引きもいるし、人をだますヤツだっている。でもそれはコルカタやインドだけに限ったことじゃない。日本以外の国では多かれ少なかれ旅行者が必ず直面する問題だ。カロルもその辺は気をつかっていて、ボランティアの学生達には色々な注意をしているのだという。とくに、ホームステイ先には日暮れまでに帰るようにと口をすっぱくして言っている。

「サダルストリートがイチバンしんぱいネ」とカロルがつぶやく。
サダルストリートとは、外国人向けの安宿やレストランなどが並ぶコルカタのちょっとした名所だ。西洋人やボランティアをしている日本人もよく訪れるため、そういう旅行者を狙って騙してやろうとたくらむヤツらの格好の活動場所にもなっているのだ。そのため、いい人そうなふりをして近づいてきたインド人に気軽についていってしまって、事件に巻き込まれる旅行者が後を絶たない。

カロルも案内する学生には、サダルストリートで知らない人に声をかけられても、決してついていかないようにキツく言ってるらしい。カロルは日本から来たボランティアの若者たちを自分の子供のように心配しているのだ。それでも時折、ダマされてしまう日本人もいるというから、なんとも情けない話なのだが…。

 車がにぎやかなパークストリートに着いた。ここから宿までは歩いて5分ほどだ。僕がカロルに礼を言って降りようとすると、カロルの携帯電話がまた鳴った。
「ハロー、アイカさん、いっしゅうかんカルカッタ、タノシカッタ?」
どうやらこれから日本に帰る学生のようだ。
「なに? またオナカこわした? なにたべた? エッグロール? インドのポカリ飲んでしっかり水をとってくださいネ」
カロルは頭をかきながら一生懸命日本語で話している。

 コルカタに来たボランティアの7割はお腹を壊すのだという。そして、スリにあったりトラブルにあったりする学生も少なくない。にもかかわらず…みんな決まって帰るときは「楽しかった!」と笑顔で日本に帰っていくらしい。僕はなんとなくわかる気がした。

「またインドにきてくださいね。バイバイ!」
カロルは電話を切って、僕に目をつぶってみせた。

「コルカタにはイロイロな面があります。ワタシは、日本のみなさんに、いいところも、悪いところも、リョウホウ知ってほしいです。ジンさんも楽しんでくださいね!」

僕はそれを聞いて、もっともっとコルカタのいいところを知りたいと思った。まずは久しぶりにサダルストリートにでも行ってみようか…。 仁

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